業務としての内部監査とは? <後編>

どんな企業でも、何らかの形で、おそらく年に一度、またおそらく全社員に対して、
人事考査」を行っているはずです。
その中にはもちろん、「管理職層」への人事考査も含まれているはずです。
行っているならば、実はそれを以て「内部監査」と称することが出来るはずなんです。
実際のISO認証取得企業において、人事考査を以て内部監査としている事例は
寡聞にして知りませんが、ちゃんと論拠はあります。
マネジメントシステムとはつまるところ、
管理職層の業務(つまり管理)を規定するものです。
であるならば、それが「維持されているか」を確認するということは、
すなわち「管理職の仕事ぶりを評価する」ことに他ならないのです。
そしてそれは、どんな企業でも人事考査という形で行われているはずのことなんです。
ただし、考査において「実績」だけしか評価されていないのであれば、
それを内部監査と称することはできません。
管理職の中にはもしかしたら、社内のマネジメントシステムは無視していても、
我流の管理技術により、結果的に不良を出さなかったような者もいるかもしれないからです。
そんな管理職が、「不良が出なかったのだからお咎め無し。」となったのでは、
社内の統制がとれません。
それでは「マネジメントシステムが維持されている」とは言えません。
実績が出るまでのプロセスである「普段の仕事(管理)ぶり」も
考査の対象とされていなくては、十分とはいえません。
もちろん、年に一度の人事考査とは別の機会に、
それをチェックする場が設けられていたとしたら、
そちらも「内部監査」と称するに値します。
一方、「実績」ももちろん重要です。
内部監査では、「マネジメントシステムが効果的であるか」も
確認しなくてはいけないのですから。
規定通りの管理業務を行っていても、
思うような成果を上げられなかった管理職がいるかもしれません。
それを明らかにする必要があるわけです。
そして、いたとしたら改善する必要があります。
(通常、そういう事を改善するのは、より上位の管理職の仕事と思われます。
 であれば、そういう改善活動自体もまた、内部監査の対象たり得ます。)
効果的であるかどうかを確認するという意味では、
最終的には「QMSの存在意義を全うできているか」まで確認する必要があります。
2010/11/7の記事でも少し触れていますが、
「QMSの存在意義を全うしている度合い」とは、≒「品質目標の達成度」でもあります。
 ※この辺についての私の考え方については、
  2009年8月11日、10月3日。10月6日に投稿した「文書の意味を見直そう <2>・<3>」
  をご参照ください。
 ・・・まとめ・・・
認証取得に当たり、内部監査などと言う聞きなれない活動が必須だと知り、
新たな「社内行事」を急造する組織が多いのかもしれませんが、
決してそれは規格の意図するところではないと思います。
どこかのセミナーに社員を派遣して内部監査員を養成するなど、
「特別な事」をする必要はありません。
どこの会社でもやっているような「管理職への人事考査」が、
そのまま(あるいはちょっと工夫するだけで)内部監査と言えるのです。
それプラス、品質目標の達成度判定までやっていれば十分です。
それらだけで、2010年11月7日投稿の、当シリーズ<中編1>にて挙げた規格要求事項のうち、
[B] の d については、満たせていると言えます。
人事考査にしろ目標達成度の測定にしろ、定期的に行うのは当然なので、
[A]も自然にクリア出来ますし、他の要求事項についても、特に難しい部分は無いと思います。
なお、内部監査と称する活動が、一種類でなくてはいけない理由もありません。
まして、一回の実施で全てを確認しなくてはいけない理由もありません。
どうも誤解されていることが多いようですが、規格にはそんなことは書いてありません。
社内に複数の内部監査があり、それぞれ違う事柄を、違ったスパンで確認しても構わないのです。
(マネジメントレビューについても同じような事が言えます。)
逆に、一種類の内部監査を一回行うだけで済ませたって、もちろんかまいません。
それは本来、企業が自主的に決めるべきことです。
・・・・・・
全5回に渡るこの「業務としての内部監査とは?」シリーズをお読みの方の中には、
「内部監査の画期的な新手法」を期待されていた方もいらっしゃるかもしれません。
こんな単純なオチで申し訳ない気も少々あるのですが、
そもそも「ISO認証を取得するからと言って、特別な事をする必要は無いんだ。」というのが
私のISO観の土台ですので、ご了承ください。

業務としての内部監査とは? <中編3>

2010年11月7日の、前回記事の続きです。
[C]監査対象となるプロセスや領域の、状態や重要性と過去の監査結果を鑑みて監査計画を立てる。
必ずしも、組織内の全てのプロセスや領域について
一律一様の内部監査をする必要は無いわけです。
次項Dとも共通することですが、
前回の監査で問題だらけだったところは重点的にやるべきですし、
しばらく問題らしい問題がでていないところはスキップしても良いでしょう。
時間も人員数も、企業内のリソースは有限です。
であれば、重点監査対象とそうでないところの差があって当然です。
そういう視点を失ったら、セレモニー化の第一歩と言ってよいでしょう。
[D]監査の基準、範囲、頻度、方法を規定する。
「そんなことまで決めないといけないのか・・・」と捉えてはいけません。
「こんな大事な事を、自由に決めてもいいんだ!」と考えてください。
特に重要なプロセスであれば、そこだけ頻繁かつ詳細にやっても良いわけですし、
逆に除外されるところがあっても良いわけです。
[E]監査員の選定と監査の実施においては、客観性と公平性を確保する。
他項D、Gにおいて、監査の方法と手順が規定されているので、
それに従って監査を行うことで、自然とクリア出来るはずです。
明らかに主観的で不公平な内部監査であれば問題ですが、
そうでさえなければ、あまり深く考える必要も無いでしょう。
「客観性や公平性を測定し、基準値をクリアしているかを判断する」なんてことは、
審査員にだって不可能なことですから。
(そもそもそんな基準は規格に書いてありません。)
一定の方法から逸脱していなければそれでよし、
ということにしておかないと、何も出来なくなってしまいます。
ただ、その基準や方法自体にも、時には見直しが必要です。
内部監査というプロセス自体を監査対象とするのも一つの方法です。
[F]監査員は、自分の仕事を監査してはいけない。
誤解されていることが多いと感じるのですが、
自分の所属部署であれば監査しても大丈夫です。
禁じられているのは、あくまで「自分の仕事」です。
全く違う仕事をしている他部署を監査することは
監査員にとって非常に勉強にはなるものの、
ある程度回数をこなさないと深い部分までは見えないというデメリットもあります。
そういう意味では、同じ仕事をしている相手を監査することにも、メリットはあります。
[G]監査の手順(計画・実施・記録・報告)は文書化する。
これは必ずしも、
「共通のチェックリストを用いて」、
所定の計画書や記録用紙を埋める」ことが求められているのではありません。
それらは、この要求事項を満たすための一つの手段にすぎません。
計画の立て方、実施における注意点、記録のポイント、報告のポイント
といった事柄が押さえてあれば十分です。
次回からはいよいよ後編です。これまでの規格解釈を踏まえて、
「こんなスタイルの内部監査でも、規格の要求に応えつつ、
 組織の成長に役立てることは可能なはずだ。」
ということを具体的に書いていきます。
(あくまでも思考実験の産物ですが。)
<続く>

業務としての内部監査とは? <中編2>

前回記事<中編1>に続き、内部監査に関するISO9001の要求事項を整理していきます。
[B]次の事項が満たされているか否かを明確にするために実施する。
  a)組織のQMSが、個別製品実現の計画に適合している。
  b)組織のQMSが、ISO9001の要求事項に適合している。
  c)組織のQMSが、および組織が決めたQMS要求事項に適合している。
  d)QMSが効果的に実施され、維持されている。
[Bはつまり、a~dの事項が満たされていることを明確に出来る活動を
行ってさえいれば、それでOKだと言うことです。
その「活動」の、具体的な中身・やり方は自由です。
活動した結果として、a~dの事項が満たされているか否かが明確になっていれば、
そのやり方で正解です。
そして、正解は一つではありません。
(一つだけ言える確かな事は、もし明確にすることに失敗したとしたら、
 そのやり方は不正解だということぐらいです。)
世間では「内部監査」と言うと、”内部監査員”なる社内資格を設置し、
その技能を持った社員を養成し、定期的に社内各部署に派遣して
その部署の仕事ぶり(の結果としての各種記録)を監査させるというやり方が多いようです。
しかし、別にその手法にこだわる必要は無く、全く新しい独創的なやり方を編み出したとしても、
ちゃんと要求事項さえ満たせていれば、審査員から何か言われる筋合いはありません。
さて、各事項をつぶさに見ていきます。
 a)
現場の業務において実際に作られるものが「個別製品」です。
そして、その作り方(詳しくは規格の「7.1」の項にあります)が、
組織の決めたQMSと整合しているかを確認出来れば良いのです。
簡単な言葉に言い換えると、
品質マニュアルその他の各種社内規定と、現場の仕事の仕方とが、
矛盾していなければそれでOKです。
 b)
すでに認証を取得している企業であれば「何をいまさら」感があります。
品質マニュアルその他の各種社内規定が、規格要求事項に
矛盾する(あるいは不足する)内容になっていないかをチェックするだけです。
規格はさほど特別なことは要求していないので、あまり神経質になる必要はないと思います。
 c)
b)と同様で、あまり神経質に気にするものではありません。
組織が自主的に決めた要求事項なるものが存在するのであれば、
規格要求事項以上に(認証取得以前から)浸透しているでしょうから。
そういった「組織独自の要求事項」が存在し、明文化されているとしたら、
品質マニュアルや品質方針の中に書かれているものと思われます。
品質に関わる各種社内規定などが、それに矛盾または不足していなければOKです。
 d)
さてこれが一番重要です。
そもそも、どんな事象を観察し、それがどういう状態であれば
「効果的だ(あるいは効果的でない)」と言えるのか

そこから考えなくてはいけません。
そこで、「もしQMSが存在しなかったら」を考えてみます。
 目標も無く、標準的な作業手順も策定されず、顧客要求事項の明確化も
 設計のレビューや出荷前のチェックもされず、クレームが来ても処置されない。
考えただけで背筋が寒くなるような組織ですね・・・
これぐらい極端な例を挙げれば、誰でも「あってよかったQMS!」と思うはずです。
(なお、これら「QMSにおいて規定される業務」は、
 いわゆる「現場仕事」とは本質的に異なります。
 これらは「現場を管理する業務」であり、
 いわゆる「管理監督者」と呼ばれる層の方々が担う業務です。)
さて、QMSが組織にとって不可欠であることはお分かり頂けたと思いますが、
さらに一歩踏み込んで、
「QMSを存在させることで、させない場合と比較して
 組織の何がどう変わることが目的なのか?」
を考えてみてください。
これは、組織ごとに自由に策定して良い目的です。
それは売上UPかもしれないし、リピーター率のUPかもしれません。
その達成度を測り、目標値を超えているか否かで判断するのが良いと思います。
QMS全体の目的(存在意義)だけでなく、
個別の管理業務ごとに目的と目標値を策定するのもいいでしょう。
(それらの一部または全体は、品質目標とも重複すると思われます。)
以上をまとめると、d)については
「管理監督者達は、QMSで規定された管理業務をきちんとこなしているか?
 そしてその成果として、QMSが存在する目的をちゃんと果たせているか?」
を確認出来れば良いということになります。
[C]~[G]は、<中編3>にて扱います。
<続く>

業務としての内部監査とは? <前編>

内部監査について書きたいのですが、その前段として、
まず「ISOが規定するところの”マネジメントシステム”の在り方」の
について、前提を確認しておこうと思います。
<前提その1:ISOが新しい活動を規定したのではない。
ISO9001:1994にて品質管理システムが規格化される前から、
立派な品質管理を行い、高品質な製品やサービスを
世に生み出している企業は多くありました。
品質に限らず、ISO27001なども同様です。
規格は、それらの企業を手本として、
多くの業種・業態・規模に適用可能なように、一般化したものにすぎません。
(という風に私は解釈していますが、ISO9001:1994の制定委員会が
 発足時にどのような活動をしていたのかは、詳しくは存じません。)
ということは、それら手本となった企業において
規格制定以前に全く行われていなかったような活動は、
基本的には規格の中にも書かれていないはずです。
ISOの規格制定委員の人たちが、「こういう活動もしたらいいんじゃね?
勝手に考えたことを盛り込んだとは考えにくいので。
規格の条文は非常に分かりにくい書き方をしているため、
「こんなこともしなくちゃいけないのか~」
と思えてしまう個所がいくつもあります。
しかしそれらも本当は、「手本とされた企業」の中では
当たり前のように行われている活動ばかりのはずです。
同じ業界にいる人間なら、(たとえ自社ではやっていなくても)
そういう活動の存在を聞いたことぐらいはあるはずです。
表現が抽象的なので、そうとは分かりにくいのですが。
「ISO9001の規格を読んで初めて、品質管理において
 ○○のような活動が必要だと知ったよ。」
と言う人がいたら、おそらく解釈の仕方が間違っているだけです。
その活動の正体は、多くの場合、決して目新しいものではなく、
まともな企業ならどこでもやっていることだと思われます。
<前提その2:要求に応える方法は自由。
規格の条文は、様々な要求を企業につきつけていますが、
企業がどのようにしてその要求に応えるかは、とくに規定していません。
業種・業態・規模等の自社の特性を鑑み、適切なやり方で応えれば良いのです。
そのはずなのですが、実際には、「○○の要求には××という方法で応えるべし。」
という画一的な手法が蔓延しています。
たとえ××が世間で普及しているやり方であったとしても、
「大企業ならやれるだろうけど、中小には無理そうだな。」
だとか、逆に
「社内全体をパッと見渡せるような零細企業なら出来るけど、
 拠点が複数あるような企業じゃ非現実的だ。」
と思うのであれば、それに盲従する必要はありません。
もちろん、××という方法だって間違いではありません。
ただし、ただ単に「間違いではない」というだけのことであり、
それ以上でも以下でもありません。
それが本当に自社に合ったやり方かどうかは、自社で考えなくてはいけません。
なお、審査員はそんなこと教えてくれません
彼らは基本的に、「○○がちゃんと出来ているか否か」にしか興味ありませんから。
(それが仕事の根幹ですし。)
ISO規格はあらゆる業種・業態・規模に適用可能であることを
意図して作られています。
なので、規格を読んで
「この要求に応えるには、こんなことをすればいいのかな。
 でもこんなこと、◎◎業界だったら出来るんだろうけど、××業界じゃ難しいよ。
 きっと××業界はISOに向いてないんだろうな。」
などと思ったのなら、それは解釈が間違っている証拠なのです。
規格が要求していることを、きっと大袈裟に捉えているのでしょう。
ISOに向いていない業界なんて、理論上は存在しないはずですから。
もっと柔軟に解釈して良いのです。
「なんだ、ようするに○○が出来ていればいいのか。
 それなら、××業界においては□□というやり方が考えられるな。」
という結論を出すのが、正しい解釈です。
さて次回は、これら2つを前提条件として、
巷で一般的に行われている「内部監査」を見直してみます。
(決して、巷で一般的に行われている内部監査のやり方を否定する内容ではありません。
 ただ、あまりにも同じようなスタイルしか聞かないので、
 全く違うやり方でも規格要求事項を満たせることを示してみようと思っています。)

月刊アイソス 2010年8月号(No.153) 感想(4)

前回からの続きです。
【2】販売の不振(目標の未達成)に対し、改善活動をしているが不十分である。
についての私の見解を以下に述べます。
宇野氏は社長や営業担当にもインタビューをされたようですが、
あまり突っ込んで聞ける雰囲気ではなかったようです。
もっとも、改善のための活動をやってはいるようなので、
これも「最低限のことはしているから(8.2.3に)適合している。」と言えます。
最低限の(本当に最低限かもしれませんが)
「PDCA」モデルは機能しているようです。
残念ながら、経営者が満足出来るほどには改善出来ていないようですが、
ISOは成果・実績の多寡に対する基準ではない(←ここ重要)ので、
「改善に失敗したから不適合」とは言えません。
そこから先は純粋に営業手腕、経営手腕の問題です。
「規格には○○をしろと書いてあるが、
 一体どこまで厳密に、詳細に、頻繁にやれば十分なのか?」
という疑問は、ISOに関わった方なら一度は持つはずです。
少なくとも規格上は、そういった“基準”は具体的に定義されていません。
であれば、決めるのは企業自身です。
企業自身が「この程度やっておけば十分だ。」と言ってしまえば、それまでです。
もっとも、問題が起きてしまった場合には、
問題の大きさに応じた是正処置をしなくてはいけませんが。
(ここでも、問題の大きさをどう評価するのかは、企業自身の胸先三寸です。)
逆に、高品質で有名な企業でも、
「まだまだ不十分だ。」と考えているかもしれませんね。
(そんな企業の姿勢を評価するのは、最終的には顧客です。)
繰り返しになりますが、ISOの要求事項と言うのは、ほとんどが
「当たり前のこと、最低限のこと」を書いているにすぎません。
少なくとも私はそう解釈しています。
なので、私にとってのISO9001の認証とは、
当たり前のことが出来ていない「真に低レベルな企業」を
篩(ふるい)にかける
ものでしかありません。
決して、「素晴らしくハイレベルな管理体制」であるとのお墨付きではありません。
その企業の製品に「不良品など無い」ことが保証されるわけでもありません。
フツーのことをフツーにやれている」会社であれば、ほとんどどこでも取れる(はず)です。
(そういう”フツーの会社”って、意外と少ないものですけど。)
認証取得を目指にあたり、そういった当たり前のことを
これまでやってこなかったのであれば、改めるべきです。
そうして認証を取得した企業であれば、
「QMSを活用することで管理レベルが上がった」と言えます。
一方、すでにやっている「当たり前のこと」については、
特に変化が無いのはむしろ当然です。
(繰り返しますが、「どれだけ上手くやれているか」は、ほぼ別問題です。)
なお、私のこういった考え方は、
中小企業のためのISO9001―何をなすべきか ISO/TC176からの助言
という本の影響を受けています。
ISO/TC176 企業はすでに」というキーワードで、ネットで検索してみてください。
内容を簡単に紹介しているWebサイトが多くあります。
宇野氏は「なぜ営業がQMSが十分に活用できていないのか」を問題視されていますが、
今回のインタビューでは原因を突き止めることは出来なかったそうです。
これに対する私の見解は、
「原因などそもそも存在しない。システム(道具)はちゃんと活用されている。
 単に、当事者の課題解決スキルが不十分なために満足な成果が出ないだけである。」
というものです。
不都合な事象(課題)に対し、その真因を追究して解決するというのは、
一つのスキルだと思います。
そのスキルが高い人が、「QMSに則った仕事の仕方」をしていたとします。
すると、その人が様々な課題を次々と解決している姿は、
傍から見ると、あたかも「QMSを活用」しているように見えるでしょう。
しかしそれは表面的な見方だと思います。
課題解決スキルの低い人が「QMSに則った仕事の仕方」だけを真似してみても、
同等の成果が出せないことは想像に難くありません。
(それまで、体系立った仕事の仕方を全くしてこなかった人であれば、
 多少の改善は見込めますが。)
ISO9001の8.5.1「是正処置」は、「不適合の原因の除去」を要求していますが、
不適合の原因を特定するメソッドや、スキルの習得課程までは教えてくれません。
マネジメントシステムとは別問題だからです。
中野医療器の売上拡大・販売力強化のために必要なのは
「その道の専門コンサルティング」であり、
QMS自体が今以上に活躍する余地はあまりないだろう、というのが私の結論です。
(私自身がこの目で中野医療器の営業現場を見たわけではありませんので、
 実態と乖離している可能性はあります。)
* * * * * * * * * * * * *
以上で、中野医療器についての感想文シリーズは終了です。
一読者からの複数回にわたる問い合わせにご対応くださり、
記事公開を認めてくださった宇野通様、
ならびにお取次くださったアイソス編集長の恩田様に、この場を借りて御礼申し上げます。

月刊アイソス 2010年8月号(No.153) 感想(3)

お待たせいたしました。2010/08/08の記事の続きです。
今回取り上げるのは、中野医療器株式会社のQMSの中でも「営業部」の部分です。
2010/08/21に書いたとおり、記事内に矛盾と取れる部分があったのですが、
執筆者である宇野氏との複数回のコンタクトを経て詳細が明らかになったので、
宇野氏の許可を得て当記事を公開することが出来ました。
なお、当初一つの記事として公開する予定だった「第3回」ですが、
入力してみたところ長過ぎたため、急遽後半部分を「第4回」として分離いたしました。
では前半部分をどうぞ。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 
 
私が矛盾と感じたのは、
 ・「実態として、営業部は販売強化のために様々な活動をしています。」
 ・「営業に関しては目標値を決めたのみで、
   具体的に改善に取り組むことがありませんでした。」
という2個所の記述です。まずこれらについて確認いたしました。
また、その「目標値」とはどんなものなのか、
営業部はその活動に於いて、「何をしていて何をしていないのか」も、質問しました。
その結果、最終的に確認できた内容は下記5点にまとめられます。
 (1)ISO取得時に、営業の品質目標として販売目標をあげてもらった。
  それは、元々ある販売目標や販売計画を流用したものだった。
  以来現在も、「品質目標=販売目標」という状態は継続している。
 (2)販売戦略を立てて実行するのが営業部門の仕事であり、当然やっている。
  しかし、「販売計画書」といったような文書は作成されていない。
  品質計画書にも書かれていない。
 (3)現在、販売は不振である。
  改善しようとしているが、昔ながらの行き当たりばったりでやっている。
 (4)具体的な販促活動については、今回のインタビューでは聞いていない。
 (5)裏話的なことは聞いたが、書ける内容ではない。
さて、これらの内容から言えることは以下の2点です。
【1】中野医療器の営業部門には、QMS導入以前からすでに、
   「目標を立てる
   「目標実現のための計画を立てる」(非文書)
   「計画を実行する
   という一連の活動が存在した。
【2】販売の不振(目標の未達成)に対し、改善活動をしているが不十分である
まず【1】について、私の視点から評価してみます。
この点について、宇野氏は「営業がそれをやるのは最低限の仕事
「計画性のない会社でも、それぐらいのことはしている。」とおっしゃっています。
どうやら、「中野医療器の取り組み方はまだまだ甘い」と考えられているようです。
それに対し私は、
「そもそもISOの要求事項の多くは、
最低限のこと、やって当たり前のことを要求しているにすぎない。」
という考えの持ち主です。
なので、少なくともこの部分については
「十分、規格の要求を満たしている」と考えています。
(あくまでもこの部分だけの話です。)
ISO業界には、
「QMSを導入したからには、『最低限以上の』『立派な』品質管理をすべきだ。」
という考えがあるようです。
あるいは、そういう『立派な』管理手法を自社に導入したくて、
ISO9001こそがその雛型であると考えて導入される企業もあるようです。
様々な考え方があることを否定はしませんが、
私の立場はほぼ正反対と言って良いでしょう。
もちろん、「継続的改善」は必要ですが、
「現状のやり方で問題はあるだろうか? 今以上に厳密に管理する必要はあるだろうか?」
を考えた上で、「特に必要が無いから、最低限のまま現状維持。」
という結論を出すことは、全く問題無いと思います。
(さすがに、特に何も考えないで現状維持というのはいただけません。
 ISO9001:2008 の、おそらく8.2.3への不適合です。)
<・・・第4回へ続く・・・>

月刊アイソス 2010年8月号(No.153) 感想(やっぱり延期のお知らせ)

アイソスへ再度問い合わせをしているのですが、
その返事が一向に届きません・・・
なので、現状では書くことが有りません。
やはり、たった一人の読者のしつこい問い合わせに、
いちいち執筆者まで巻き込んで対応はしてくれないのでしょうか。
さて、10月号のアイソスでは、このブログでも度々紹介している
西沢総研の西沢氏が記事を書かれています。
そちらの感想文の方が先になりそうです。

月刊アイソス 2010年8月号(No.153) 感想(2.5)

当シリーズ第3回の記事はまだ出来上がっていないのですが、
先に第2回(2010/08/08)の記事について補足しておきます。
「ISO9001の要求事項には、外注品不良率の基準値なんて書いていない
 ゆえに、審査員から外注品の不良率について
 『何とかするように』などと言われる筋合いは無い。」
という主旨の記事を書きました。
しかし、もしかしたら私がアイソスの記事を曲解していたのかもしれません。
審査員は、一体何を指して「何とかするように」と言ったのでしょうか?
それが重要なのですが、アイソスの記事からは
それを明確に読み取ることは出来ません。
なので私は「外注品の不良率の高さ」を指しているのだと
理解したのですが、別の可能性もあることに気がつきました。
もし審査員が、
「外注品の不良率が高いことが社内で問題視されているのに、
 なかなか効果的な改善策を打てずにいる。」
ことを指して「何とかするように」と言ったのであれば、
これは決して筋違いな指摘ではありません。
“マネジメントシステム”や”PDCA”といった概念は、
課題解決のスキーム」という一面を強く持っています。
課題の存在が明らかであるにもかかわらず
ずっと改善されないままでは、”機能不全”と言われても仕方ありません。
(もっとも、中野医療器は試行錯誤をしているわけですから、
 改善の姿勢すら見えない企業よりははるかに優秀です。)
審査員の中には、どこかの企業の生産現場で
品質管理業務を経験された方もいらっしゃいます。
現場を知っているのは結構なのですが、
稀に「古巣の基準」に基づいて
受審企業に注文をつけてくるケースがあるので困ります。
それはもはやISOの審査ではありません。
審査員の発言の意図がどこにあるのか、
その根拠は規格のどの条文なのか、
受審企業は常に考える必要があります。
私も自社の審査を数週間後に控えているので、
改めて規格を読み返すことで気を引き締めています。

月刊アイソス 2010年8月号(No.153) 感想(再開するかもしれないお知らせ)

3日前に無期限延期を告知したばかりの当シリーズですが、
アイソス編集部を通じて宇野氏より回答をいただけたので、
再開出来る可能性が出てまいりました。
回りくどい言い方ですみません。
なぜ再開をはっきい宣言出来ないかと言いますと・・・
もともとこの記事は、組織が余りうまくいっていない中で
インタビューに応じていただき、雑誌への掲載も認めていただけたものです。
そのため具体的な内容を伏せている部分も多く、
回りくどい書き方になってしまったそうです。
そんな中、私が(アイソス編集部を通じて)宇野氏より教えていただいた内容を
ブログに載せてしまうと、中野医療器・宇野氏・アイソス編集部に
ご迷惑をかけてしまう可能性があります。
そのため、出来あがった記事はいつも以上に推敲を重ね、
最終的には宇野氏に掲載の許可をたうえで公開したいと考えております。
お蔵入りになる可能性も十分ありますが、ご了承ください。

月刊アイソス 2010年8月号(No.153) 感想(中断のお知らせ)

2010/08/01,08 と2回にわたって記事を書いてきました当シリーズですが、
まことに勝手ながら第3回は無期限延期とさせていただきます。
(もともと不定期連載ですけど・・・)
記事内に矛盾(※1)と思われる個所があり、
アイソス編集部に問い合わせをしているのですが梨の礫(※2)です。
事実が曖昧なまま、自分に都合の良いように解釈して
感想を書くわけにはいかないので確認したのですが、
ちょっと残念です。
なお、2010/08/09 の記事については、
企業実務編集部へ私の意見を投書したところ、
編集長より返信を頂けました。
もし近い将来、企業実務にて
「成長企業の中間管理職・幹部候補の育成」といった内容の
記事が書かれたら、私のリクエストが通ったのだと思われます。
特定業種向けの専門誌の編集部というのは、
一体どれぐらいの人数で運営されていて、
一日にどれぐらいの問い合わせを読者から受けているのでしょうね。
1日に何百通もメールが届くのであれば、数人規模では対処しきれなくても
仕方ないとは思うのですが。
※1 営業部門の品質目標設定と活動の実態についてです。
※2 「なしのつぶて」と読みます。
   こういう字を書くんですね~ はじめて知りました。