月刊アイソス 2010年8月号(No.153) 感想(4)

前回からの続きです。
【2】販売の不振(目標の未達成)に対し、改善活動をしているが不十分である。
についての私の見解を以下に述べます。
宇野氏は社長や営業担当にもインタビューをされたようですが、
あまり突っ込んで聞ける雰囲気ではなかったようです。
もっとも、改善のための活動をやってはいるようなので、
これも「最低限のことはしているから(8.2.3に)適合している。」と言えます。
最低限の(本当に最低限かもしれませんが)
「PDCA」モデルは機能しているようです。
残念ながら、経営者が満足出来るほどには改善出来ていないようですが、
ISOは成果・実績の多寡に対する基準ではない(←ここ重要)ので、
「改善に失敗したから不適合」とは言えません。
そこから先は純粋に営業手腕、経営手腕の問題です。
「規格には○○をしろと書いてあるが、
 一体どこまで厳密に、詳細に、頻繁にやれば十分なのか?」
という疑問は、ISOに関わった方なら一度は持つはずです。
少なくとも規格上は、そういった“基準”は具体的に定義されていません。
であれば、決めるのは企業自身です。
企業自身が「この程度やっておけば十分だ。」と言ってしまえば、それまでです。
もっとも、問題が起きてしまった場合には、
問題の大きさに応じた是正処置をしなくてはいけませんが。
(ここでも、問題の大きさをどう評価するのかは、企業自身の胸先三寸です。)
逆に、高品質で有名な企業でも、
「まだまだ不十分だ。」と考えているかもしれませんね。
(そんな企業の姿勢を評価するのは、最終的には顧客です。)
繰り返しになりますが、ISOの要求事項と言うのは、ほとんどが
「当たり前のこと、最低限のこと」を書いているにすぎません。
少なくとも私はそう解釈しています。
なので、私にとってのISO9001の認証とは、
当たり前のことが出来ていない「真に低レベルな企業」を
篩(ふるい)にかける
ものでしかありません。
決して、「素晴らしくハイレベルな管理体制」であるとのお墨付きではありません。
その企業の製品に「不良品など無い」ことが保証されるわけでもありません。
フツーのことをフツーにやれている」会社であれば、ほとんどどこでも取れる(はず)です。
(そういう”フツーの会社”って、意外と少ないものですけど。)
認証取得を目指にあたり、そういった当たり前のことを
これまでやってこなかったのであれば、改めるべきです。
そうして認証を取得した企業であれば、
「QMSを活用することで管理レベルが上がった」と言えます。
一方、すでにやっている「当たり前のこと」については、
特に変化が無いのはむしろ当然です。
(繰り返しますが、「どれだけ上手くやれているか」は、ほぼ別問題です。)
なお、私のこういった考え方は、
中小企業のためのISO9001―何をなすべきか ISO/TC176からの助言
という本の影響を受けています。
ISO/TC176 企業はすでに」というキーワードで、ネットで検索してみてください。
内容を簡単に紹介しているWebサイトが多くあります。
宇野氏は「なぜ営業がQMSが十分に活用できていないのか」を問題視されていますが、
今回のインタビューでは原因を突き止めることは出来なかったそうです。
これに対する私の見解は、
「原因などそもそも存在しない。システム(道具)はちゃんと活用されている。
 単に、当事者の課題解決スキルが不十分なために満足な成果が出ないだけである。」
というものです。
不都合な事象(課題)に対し、その真因を追究して解決するというのは、
一つのスキルだと思います。
そのスキルが高い人が、「QMSに則った仕事の仕方」をしていたとします。
すると、その人が様々な課題を次々と解決している姿は、
傍から見ると、あたかも「QMSを活用」しているように見えるでしょう。
しかしそれは表面的な見方だと思います。
課題解決スキルの低い人が「QMSに則った仕事の仕方」だけを真似してみても、
同等の成果が出せないことは想像に難くありません。
(それまで、体系立った仕事の仕方を全くしてこなかった人であれば、
 多少の改善は見込めますが。)
ISO9001の8.5.1「是正処置」は、「不適合の原因の除去」を要求していますが、
不適合の原因を特定するメソッドや、スキルの習得課程までは教えてくれません。
マネジメントシステムとは別問題だからです。
中野医療器の売上拡大・販売力強化のために必要なのは
「その道の専門コンサルティング」であり、
QMS自体が今以上に活躍する余地はあまりないだろう、というのが私の結論です。
(私自身がこの目で中野医療器の営業現場を見たわけではありませんので、
 実態と乖離している可能性はあります。)
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以上で、中野医療器についての感想文シリーズは終了です。
一読者からの複数回にわたる問い合わせにご対応くださり、
記事公開を認めてくださった宇野通様、
ならびにお取次くださったアイソス編集長の恩田様に、この場を借りて御礼申し上げます。