業務としての内部監査とは? <前編>

内部監査について書きたいのですが、その前段として、
まず「ISOが規定するところの"マネジメントシステム"の在り方」の
について、前提を確認しておこうと思います。
<前提その1:ISOが新しい活動を規定したのではない。
ISO9001:1994にて品質管理システムが規格化される前から、
立派な品質管理を行い、高品質な製品やサービスを
世に生み出している企業は多くありました。
品質に限らず、ISO27001なども同様です。
規格は、それらの企業を手本として、
多くの業種・業態・規模に適用可能なように、一般化したものにすぎません。
(という風に私は解釈していますが、ISO9001:1994の制定委員会が
 発足時にどのような活動をしていたのかは、詳しくは存じません。)
ということは、それら手本となった企業において
規格制定以前に全く行われていなかったような活動は、
基本的には規格の中にも書かれていないはずです。
ISOの規格制定委員の人たちが、「こういう活動もしたらいいんじゃね?
勝手に考えたことを盛り込んだとは考えにくいので。
規格の条文は非常に分かりにくい書き方をしているため、
「こんなこともしなくちゃいけないのか~」
と思えてしまう個所がいくつもあります。
しかしそれらも本当は、「手本とされた企業」の中では
当たり前のように行われている活動ばかりのはずです。
同じ業界にいる人間なら、(たとえ自社ではやっていなくても)
そういう活動の存在を聞いたことぐらいはあるはずです。
表現が抽象的なので、そうとは分かりにくいのですが。
「ISO9001の規格を読んで初めて、品質管理において
 ○○のような活動が必要だと知ったよ。」
と言う人がいたら、おそらく解釈の仕方が間違っているだけです。
その活動の正体は、多くの場合、決して目新しいものではなく、
まともな企業ならどこでもやっていることだと思われます。
<前提その2:要求に応える方法は自由。
規格の条文は、様々な要求を企業につきつけていますが、
企業がどのようにしてその要求に応えるかは、とくに規定していません。
業種・業態・規模等の自社の特性を鑑み、適切なやり方で応えれば良いのです。
そのはずなのですが、実際には、「○○の要求には××という方法で応えるべし。」
という画一的な手法が蔓延しています。
たとえ××が世間で普及しているやり方であったとしても、
「大企業ならやれるだろうけど、中小には無理そうだな。」
だとか、逆に
「社内全体をパッと見渡せるような零細企業なら出来るけど、
 拠点が複数あるような企業じゃ非現実的だ。」
と思うのであれば、それに盲従する必要はありません。
もちろん、××という方法だって間違いではありません。
ただし、ただ単に「間違いではない」というだけのことであり、
それ以上でも以下でもありません。
それが本当に自社に合ったやり方かどうかは、自社で考えなくてはいけません。
なお、審査員はそんなこと教えてくれません
彼らは基本的に、「○○がちゃんと出来ているか否か」にしか興味ありませんから。
(それが仕事の根幹ですし。)
ISO規格はあらゆる業種・業態・規模に適用可能であることを
意図して作られています。
なので、規格を読んで
「この要求に応えるには、こんなことをすればいいのかな。
 でもこんなこと、◎◎業界だったら出来るんだろうけど、××業界じゃ難しいよ。
 きっと××業界はISOに向いてないんだろうな。」
などと思ったのなら、それは解釈が間違っている証拠なのです。
規格が要求していることを、きっと大袈裟に捉えているのでしょう。
ISOに向いていない業界なんて、理論上は存在しないはずですから。
もっと柔軟に解釈して良いのです。
「なんだ、ようするに○○が出来ていればいいのか。
 それなら、××業界においては□□というやり方が考えられるな。」
という結論を出すのが、正しい解釈です。
さて次回は、これら2つを前提条件として、
巷で一般的に行われている「内部監査」を見直してみます。
(決して、巷で一般的に行われている内部監査のやり方を否定する内容ではありません。
 ただ、あまりにも同じようなスタイルしか聞かないので、
 全く違うやり方でも規格要求事項を満たせることを示してみようと思っています。)

月刊アイソス 2010年8月号(No.153) 感想(4)

前回からの続きです。
【2】販売の不振(目標の未達成)に対し、改善活動をしているが不十分である。
についての私の見解を以下に述べます。
宇野氏は社長や営業担当にもインタビューをされたようですが、
あまり突っ込んで聞ける雰囲気ではなかったようです。
もっとも、改善のための活動をやってはいるようなので、
これも「最低限のことはしているから(8.2.3に)適合している。」と言えます。
最低限の(本当に最低限かもしれませんが)
「PDCA」モデルは機能しているようです。
残念ながら、経営者が満足出来るほどには改善出来ていないようですが、
ISOは成果・実績の多寡に対する基準ではない(←ここ重要)ので、
「改善に失敗したから不適合」とは言えません。
そこから先は純粋に営業手腕、経営手腕の問題です。
「規格には○○をしろと書いてあるが、
 一体どこまで厳密に、詳細に、頻繁にやれば十分なのか?」
という疑問は、ISOに関わった方なら一度は持つはずです。
少なくとも規格上は、そういった"基準"は具体的に定義されていません。
であれば、決めるのは企業自身です。
企業自身が「この程度やっておけば十分だ。」と言ってしまえば、それまでです。
もっとも、問題が起きてしまった場合には、
問題の大きさに応じた是正処置をしなくてはいけませんが。
(ここでも、問題の大きさをどう評価するのかは、企業自身の胸先三寸です。)
逆に、高品質で有名な企業でも、
「まだまだ不十分だ。」と考えているかもしれませんね。
(そんな企業の姿勢を評価するのは、最終的には顧客です。)
繰り返しになりますが、ISOの要求事項と言うのは、ほとんどが
「当たり前のこと、最低限のこと」を書いているにすぎません。
少なくとも私はそう解釈しています。
なので、私にとってのISO9001の認証とは、
当たり前のことが出来ていない「真に低レベルな企業」を
篩(ふるい)にかける
ものでしかありません。
決して、「素晴らしくハイレベルな管理体制」であるとのお墨付きではありません。
その企業の製品に「不良品など無い」ことが保証されるわけでもありません。
フツーのことをフツーにやれている」会社であれば、ほとんどどこでも取れる(はず)です。
(そういう"フツーの会社"って、意外と少ないものですけど。)
認証取得を目指にあたり、そういった当たり前のことを
これまでやってこなかったのであれば、改めるべきです。
そうして認証を取得した企業であれば、
「QMSを活用することで管理レベルが上がった」と言えます。
一方、すでにやっている「当たり前のこと」については、
特に変化が無いのはむしろ当然です。
(繰り返しますが、「どれだけ上手くやれているか」は、ほぼ別問題です。)
なお、私のこういった考え方は、
中小企業のためのISO9001―何をなすべきか ISO/TC176からの助言
という本の影響を受けています。
ISO/TC176 企業はすでに」というキーワードで、ネットで検索してみてください。
内容を簡単に紹介しているWebサイトが多くあります。
宇野氏は「なぜ営業がQMSが十分に活用できていないのか」を問題視されていますが、
今回のインタビューでは原因を突き止めることは出来なかったそうです。
これに対する私の見解は、
「原因などそもそも存在しない。システム(道具)はちゃんと活用されている。
 単に、当事者の課題解決スキルが不十分なために満足な成果が出ないだけである。」
というものです。
不都合な事象(課題)に対し、その真因を追究して解決するというのは、
一つのスキルだと思います。
そのスキルが高い人が、「QMSに則った仕事の仕方」をしていたとします。
すると、その人が様々な課題を次々と解決している姿は、
傍から見ると、あたかも「QMSを活用」しているように見えるでしょう。
しかしそれは表面的な見方だと思います。
課題解決スキルの低い人が「QMSに則った仕事の仕方」だけを真似してみても、
同等の成果が出せないことは想像に難くありません。
(それまで、体系立った仕事の仕方を全くしてこなかった人であれば、
 多少の改善は見込めますが。)
ISO9001の8.5.1「是正処置」は、「不適合の原因の除去」を要求していますが、
不適合の原因を特定するメソッドや、スキルの習得課程までは教えてくれません。
マネジメントシステムとは別問題だからです。
中野医療器の売上拡大・販売力強化のために必要なのは
「その道の専門コンサルティング」であり、
QMS自体が今以上に活躍する余地はあまりないだろう、というのが私の結論です。
(私自身がこの目で中野医療器の営業現場を見たわけではありませんので、
 実態と乖離している可能性はあります。)
* * * * * * * * * * * * *
以上で、中野医療器についての感想文シリーズは終了です。
一読者からの複数回にわたる問い合わせにご対応くださり、
記事公開を認めてくださった宇野通様、
ならびにお取次くださったアイソス編集長の恩田様に、この場を借りて御礼申し上げます。

月刊アイソス 2010年8月号(No.153) 感想(3)

お待たせいたしました。2010/08/08の記事の続きです。
今回取り上げるのは、中野医療器株式会社のQMSの中でも「営業部」の部分です。
2010/08/21に書いたとおり、記事内に矛盾と取れる部分があったのですが、
執筆者である宇野氏との複数回のコンタクトを経て詳細が明らかになったので、
宇野氏の許可を得て当記事を公開することが出来ました。
なお、当初一つの記事として公開する予定だった「第3回」ですが、
入力してみたところ長過ぎたため、急遽後半部分を「第4回」として分離いたしました。
では前半部分をどうぞ。
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私が矛盾と感じたのは、
 ・「実態として、営業部は販売強化のために様々な活動をしています。」
 ・「営業に関しては目標値を決めたのみで、
   具体的に改善に取り組むことがありませんでした。」
という2個所の記述です。まずこれらについて確認いたしました。
また、その「目標値」とはどんなものなのか、
営業部はその活動に於いて、「何をしていて何をしていないのか」も、質問しました。
その結果、最終的に確認できた内容は下記5点にまとめられます。
 (1)ISO取得時に、営業の品質目標として販売目標をあげてもらった。
  それは、元々ある販売目標や販売計画を流用したものだった。
  以来現在も、「品質目標=販売目標」という状態は継続している。
 (2)販売戦略を立てて実行するのが営業部門の仕事であり、当然やっている。
  しかし、「販売計画書」といったような文書は作成されていない。
  品質計画書にも書かれていない。
 (3)現在、販売は不振である。
  改善しようとしているが、昔ながらの行き当たりばったりでやっている。
 (4)具体的な販促活動については、今回のインタビューでは聞いていない。
 (5)裏話的なことは聞いたが、書ける内容ではない。
さて、これらの内容から言えることは以下の2点です。
【1】中野医療器の営業部門には、QMS導入以前からすでに、
   「目標を立てる
   「目標実現のための計画を立てる」(非文書)
   「計画を実行する
   という一連の活動が存在した。
【2】販売の不振(目標の未達成)に対し、改善活動をしているが不十分である
まず【1】について、私の視点から評価してみます。
この点について、宇野氏は「営業がそれをやるのは最低限の仕事
「計画性のない会社でも、それぐらいのことはしている。」とおっしゃっています。
どうやら、「中野医療器の取り組み方はまだまだ甘い」と考えられているようです。
それに対し私は、
「そもそもISOの要求事項の多くは、
最低限のこと、やって当たり前のことを要求しているにすぎない。」
という考えの持ち主です。
なので、少なくともこの部分については
「十分、規格の要求を満たしている」と考えています。
(あくまでもこの部分だけの話です。)
ISO業界には、
「QMSを導入したからには、『最低限以上の』『立派な』品質管理をすべきだ。」
という考えがあるようです。
あるいは、そういう『立派な』管理手法を自社に導入したくて、
ISO9001こそがその雛型であると考えて導入される企業もあるようです。
様々な考え方があることを否定はしませんが、
私の立場はほぼ正反対と言って良いでしょう。
もちろん、「継続的改善」は必要ですが、
「現状のやり方で問題はあるだろうか? 今以上に厳密に管理する必要はあるだろうか?」
を考えた上で、「特に必要が無いから、最低限のまま現状維持。」
という結論を出すことは、全く問題無いと思います。
(さすがに、特に何も考えないで現状維持というのはいただけません。
 ISO9001:2008 の、おそらく8.2.3への不適合です。)
<・・・第4回へ続く・・・>