第18回防衛大学校教授による現代の安全保障講座 (中編)

前回の続きです。
本当は間にもうひとつの講演があって「3本立て」だったのですが、
特に興味のわかないテーマで集中力も切れそうだったため、出席しませんでした。
<2>中東で何が起きているのか -アラブ諸国の政治変動とその背景-
いわゆる「アラブの春」についての解説です。
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[1]各国の情勢
■チュニジア(ジャスミン革命)
各国で起きている反政府活動の発端となったのはこの国です。
・2010年12月、青年が抗議の焼身自殺
・一気に反ベンアリ運動として拡大。
・2011年1月14日、ベンアリ大統領がサウジへ亡命。
■エジプト
・カイロで連日のデモ
・主要都市へ拡大
・2011年2月11日、ムバラク大統領退陣
 最後はアメリカから引導を渡される。亡命せず逮捕され、裁判中。
・軍最高評議会が実験掌握
 当初は、一定期間経過後に選挙を実施して民政に移管すると約束。
 予算などで軍に特別な権限を与える新憲法を導入しようとするなど
 権益維持の姿勢を見せたため、現在は軍に対してデモが起きている。
■リビア
・2011年2月から内戦状態
・2011年3月、国連安保理決議に基づき、NATO介入。
・2011年8月末、カダフィ政権崩壊。暫定国民評議会が実験掌握。
・2011年10月20日、カダフィ大佐死亡確認。
■シリア
・2011年3月から激しい反政府デモ
・アサド政権による弾圧継続中。国連の推定によれば、3500人以上が死亡。
 (外国の報道陣はシャットアウト中)
・内政干渉しないのが建前だったアラブ連盟の各国も、
 国内からの批判を恐れシリアには積極的に介入。
 シリアの加盟資格を停止し、経済制裁中。
■その他
バハレーン、イエメン、サウジ、ヨルダン、モロッコなどで
体制転換や政治改革を求める動き。
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[2]現状
■体制移行中
 チュニジア・・・10月に制憲議会選挙実施)
 エジプト・・・・11月28日、国民会議選挙実施
 リビア・・・・・10月に暫定政府樹立、8ヶ月以内に制憲議会選挙実施予定
■一定の改革やバラマキ政策で鎮静中
 ヨルダン、サウジ、オマーン、モロッコ
■国家による徹底的な弾圧
 バハレーン(王家はスンニ派で、国民の7~8割はシーア派。対立は昔から。)
■デモと暴力の拡大
 ・シリア
 ・イエメン(背景には、統合して20年しか経っていない南北の対立もある)
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[3]共通の背景:民衆の怒り
・高い失業率、富の偏在、為政者一族による権益独占、腐敗、汚職、不正疑惑etc
 社会主義的な国有企業が経営破綻し、民営化したとします。
 その場合、権力者の親族やその友人などに、安値で払い下げられます。
 そして効率化を行った結果、町には失業者が溢れます。
 結局一部の人間にしか旨みが無いため、不満が募ることになります。
・基本的人権の侵害、政治参加の否定
・「世襲共和制」による閉塞感(シリア、エジプト、リビアなど)
・警察国家(秘密警察による恐怖政治)
・ばら撒き政治の失敗(石油収入の分配の失敗)
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[4]新しいアクター:若者の運動
・若者たちがデモや抗議行動呼びかけ(既成の政党やイスラム主義組織とは別。)
・スマートフォンなどを駆使したネット上での活動
 新しい大衆動員のツールであり、討論の場でもある。
 フェースブック、ツイッター、Youtubeなどで、プロの報道陣がいない場所からでも
 起きた事がすぐに世界中へ発信される。
 “シビックジャーナリズム”と呼ばれます。
・衛星テレビ(特にアル:ジャジーラ)の役割
 これらの若者の運動は突然出てきたものではない。
・エジプト:イラク戦争反対運動、ムバラク大統領後継者問題をめぐる運動、
 労働運動などが続いていた。
・国際的な非暴力反体制運動とのつながり
 エジプトの反体制派は、セルビアの反ミロシェビッチ体制運動家から
 反体制運動のトレーニングを受けたそうです。
 http://www.foreignpolicy.com/articles/2011/02/16/revolution_u&page=full
 若者は国境をすぐ越えるしネットで情報もすぐ手に入れる。
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[5]オバマ政権の3つの対応
・即時体制移行を要求:チュニジア、エジプト
・改革を要求:バハレーン、イエメン
・軍事介入:リビア
・シリアは?
 EUなどと共に経済制裁。
 しかし、国連安保理では中国とロシアが強く反対し、
 軍事介入は無し。(安保理議長声明のみ)
 
 中国とロシアが欧米の軍事介入を嫌うのは今に始まったことでは有りませんが、
 シリアに権益を持っているので欧米にリードされたくないそうです。
 中国は既にリビアでだいぶ損をしているそうです。
 なお、中国企業は他国へ進出して工場を建てても、
 中国人労働者を雇うので現地の雇用は増えず、摩擦もあるそうです。
 
・軍事介入に関するオバマの原則(2011年3月28日 国防大学演説)
 - 虐殺防止は米国の国益であり、そのための軍事介入は有りえる。
 - 軍事介入は単独では行わず、国連の授権と国際協調が前提。
 - 軍事力による体制転換はしない。
<後編へ続く>