第18回防衛大学校教授による現代の安全保障講座 (後編)

中編に続き、「アラブの春」についての解説です。
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[6]国家の性格と民衆運動
■エジプト、チュニジア型
・国家としてのまとまりがある。
・国民の一体性が強い。
・軍の独立性が高い。為政者の私的な道具ではない。
■シリア、イエメン、リビア型
・国家としてのまとまりが弱い。
→民族や宗教・宗派、部族対立が強い。
・軍が国民から乖離。
→経済と権力の依存関係の中に組み込まれている。
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[7]シリアの動向
■アサド体制
・イスラム教アラウィー派(人口の15%)中心の少数派体制。
・国民の多数はスンニ派。ほかにキリスト教諸派等。
・父アサド時代、スンニ派のムスリム同胞団を弾圧。(1982年のハマ事件等)
■シリアの地政学的重要性=アサド体制の特徴
・イスラエルとの(管理された)対立。
→1996年以降、ゴラン高原を挟んで対峙。
本気で戦争をする気はない。(一番安全なPKO?)
・イラン(非アラブ国家)との戦略的関係
イランにとってシリアはアラブ世界での唯一の同盟国
・ヒズボラ(レバノン)とハマス(パレスチナ)を支援。
■アサド体制が崩壊すると・・・
・多数派のスンニ派が権力掌握? ムスリム同胞団の発言力増大?
・国内の混乱→レバノンへ混乱波及?
・イランはアラブ世界への"橋頭堡"を喪失。
・ヒズボラが後ろ盾を失う。
・ゴラン高原でのPKO=UNDOF(国連兵力引き離し部隊)への影響?
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[8]移行期の今後
■難しい移行期間
・新しい運動体/組織はどうなる:若者たちの経験不足
・社会全体が民主化に慣れていない。(政党政治の経験無し)
・民衆の要求にどう応えるか:限られたパイ
・軍の動向(民主化に応じるのか)
→軍が巨大なコングロマリットとなっていて、権益を守るため文民統制が効かない。
■イスラム主義組織の動向
・エジプトのムスリム同胞団
・チュニジアのナハダ
→10月の選挙で単独過半数取れず(4割)世俗2派と連立。
・強さ:草の根的基盤、唯一の組織化された組織、地方はイスラム色強い。
・弱さ:イスラム法導入への国民の危惧、政治改革で他の勢力が活動する余地が拡大

■アルカイダなどの過激勢力
・全体として弱体化(ビン・ラディンなど指導者の殺害)
・民衆の支持減少(イスラム過激派を「恐怖」とみる民衆の増加)
・ただし破綻国家(イエメン、ソマリアなど)で活動の場を得る可能性
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[9]中東の全体的な情勢への影響
■エジプトの新しい外交姿勢
・反イスラエル的な国民感情に敏感
ただしイスラエルとの平和条約は維持。
破棄するとアメリカが黙っていない。維持していれば12億ドルの援助が貰える。
・シナイ半島の治安悪化(ガスパイプライン爆破テロ)
→国内全体の治安問題
・イランとの関係正常化の動き
■パレスチナ
・若者の運動活発化
・ファタハとハマスの暫定統一政府樹立合意(5月)
・9月に国連加盟申請(アメリカは強く反対)
■イスラエルの不安
・エジプトとの関係の冷却
・パレスチナへの国際的な支持増大
・シリアの動向
■イランへのプラスとマイナス
・エジプトとの関係改善の兆し
ムバラク政権との関係は悪かったが、
暫定政権になって変わるかもしれない。
・シリアの動向
イランにとってはアラブ世界への重要な橋頭堡なので、
シリアの現体制を見限って反体制派につくべきか否か迷っている。
現体制がいつまで持つか見通しが立たない。
・イラン国民への影響
■イエメン情勢
・アラビア半島のアルカイダ(AQAP)
・ソマリアのイスラム主義組織との関係(?)
以上です。
【参考】


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