出版社は電子”自費”出版にどう対応するのか?

Appleが新アプリ「iBooks Author」を発表しました。
既存の電子書籍化ツールとは比べ物にならないぐらい簡単に
電子書籍を作成できるそうです。
こういうのはAppleのお家芸ですね。
ただし、iBooks Authorで電子書籍化した著作物を販売しようとしたら、
同じくAppleの「iBooks Store」でしか販売出来ないそうです。
既存の紙媒体の製造・流通に喩えるなら、
本屋(小売店)が物書き(製造者・技術者・職人)に「全自動印刷製本機」を無料で利用させ、
その代わりに、出来上がった本は自分の店だけで売る、
という感じでしょうか。
どうやら、「出版社」という存在がすっぽりと抜けているようです。
出版社(の編集者)は、本の「商品」としての価値(魅力)を高めるために
過去の経験や市場動向を踏まえて物書きに対してアドバイスをしたり、
広告宣伝戦略を考えたり、本屋や取次店に売り込んだりするのが仕事ですが、
「iBooks Store」はそういう「世話」をしてくれるわけでは無いようです。
自分で書いた原稿を、電子書籍として自費出版してくれるサービスは、
「iBooks Store」が初めてではありません。これまでにもあります。
作家のよしもとばななさんは、エッセー集を出版社を通さずに電子出版した際、
そのメリットとして、出版社を通すことによる「ストレス」が無くなることを挙げています。
ただやはり、自分で校正できる程度の長さにする必要があるなど、
自費出版独特の制約もあったようです。
(もともと電子書籍では長い文章は読みにくいので、特に問題ではなかったそうです。)
電子化によって、自費出版のハードルは今後もどんどん下がって行くと思います。
これまでは、自費出版という手段を選ばないのなら、
出版社を通して出版せざるを得なかったわけですが、
そんな「既得権」を失った出版社が、今後どのようにして
自身の存在価値をアピールしてゆくのか、注目したいと思います。
出版社が持つノウハウが失われることで、電子書籍市場が
同人誌のような出版物ばかりになったら嫌だなあ・・・
と心配しているのは私だけでしょうか。杞憂だとよいのですが。
(同人活動が活発になり、そこからプロデビューする才能が伸びてゆくのであれば、
 勿論それは歓迎すべきことです。)
かつて、漫画雑誌をテーマに出版業界の内情に深く切り込んだ、
「編集王」という漫画がありました。
著者の土田世紀氏は、青少年育成条例への抗議のため、
ポルノとは全く関係の無いグルメ漫画の登場人物を、
何の脈絡も無くフルチンで描いたこともある漫画家です。
こういう問題には関心を持たれていることだろうと思うので
この問題を取り上げた、編集王の特別編でも描いてくれないものかと、期待しています。