2019年台風19号の教訓(3:被災後の行動)

私は、台風19号で被災した川崎市で数回のボランティア活動を行いました。
そこで出会った被災者の方々は、被災直後の心境として、皆さん一様に「呆然とした」、「途方に暮れた」とおっしゃいました。

 

水が引いてやっと避難所から帰れた時に、自宅が浸水して室内が滅茶苦茶になっていたら、誰だって同じだと思います。
家電製品はもちろんのこと、箪笥の中の衣類など、生活基盤の殆どがダメになっているのですから。

私が見た中では、以下の被災家屋が印象に残っています。

・仏壇が傾いている。(おそらく、浸水時に一度浮き上がったものと思われます。)
・システムキッチンの引き出しに水が残っている。
・ピアノの鍵盤が水を吸って膨らみ、動かなくなっている。

家中いたるところがこんな有様ですから、どこから手を付けていいのか分からなくて当然です。

 


都市部の住民で、「生活基盤に大きくダメージを受けるような自然災害」を複数回経験している方は稀だと思います。
何十年生きていても、「被災」なんて初めてだという方が殆どではないでしょうか。

 

そこで、私が被災家屋数軒の片付け通じて得た経験をご紹介したいのですが・・・

まず、片付けの前に「やってはいけないこと」、「やっておくべきこと」が一つずつあります。

やってはいけないこと」は、いきなり電気のブレーカーをあげることです。

浸水で故障した家電製品にいきなり電気を流すと発火する恐れがあるそうで、総務省消防庁のWEBサイトで注意喚起されています。
[通電火災にご注意ください]

地域の電気が復旧していたとしても、しばらくは懐中電灯を使った方が良さそうです。

 

やっておくべきこと」は、被災した家屋の写真を撮ることです。

なぜなら、役所での罹災証明書発行手続きにおいて、必要になる可能性が高いからです。
(もちろん、大地震や津波の場合は親族等の安否確認を優先してもいいのですが。)

具体的な発行手続きについては各自治体へ確認する必要がありますが、少なくとも「被災直後の、ありのままの光景」が写真として残されていれば、説得力のある証拠になるため、スムーズな処理が期待できると思います。

「ダメになった家財道具」はもちろんのこと、「外壁(壁紙)に残った水の痕跡」も重要です。
浸水の深さを示す重要な証拠になるので、掃除の前に撮影しておきましょう。
ズームや接写はせず、少し距離を置いて地面(床)を一緒に撮ると、深さがよく分かります。

なお、罹災証明書が発行されると「納税の猶予を受けられる」等のメリットがあります。
詳しいことは国税庁のWEBサイトを参照してください。たとえば以下のページです。
[災害等にあったとき]

また、「保険金の受給」に必要となることもあるそうです。

 

一通り撮影したら、いよいよ片付けを始めます。

早ければ、翌日にはもう近隣の非被災地域からボランティアが集まり始めているかもしれません。
最低限の身元確認は必要でしょうが、遠慮せず積極的に呼びこんで手伝ってもらいましょう。
成人男性が何人もいる大家族でない限り、自力では明らかに困難な作業ですから。

とはいえ、ボランティアにはその家のことは何も分かりません。

引越しの作業を、プロフェッショナルな引越専門業者ではない素人集団にやらせるようなイメージで、家主が司令塔になる必要があります。


私自身はただの一兵卒のボランディアとしての経験しかありませんが、司令塔を務めるなら覚えておきたいと感じたことを以下に紹介します。

 

<1、捨てない物の特定>
大部分のものは捨てざるを得ないでしょうが、捨てるわけにはいかないものもあります。
たとえば、「洗えば使えそうな下着や衣類」・「箪笥の奥に隠してある実印や貴金属」・「思い出の詰まったアルバム」・「重要な証書の類」です。

そして、それを判断できるのは家主だけです。
なお、捨てることはいつでもできるので、少しでも迷ったら「当面は捨てない物」として扱うのがよいと思います。

ボランティアとは言え、他人の目には触れさせたくない物もあるでしょうから、できる限り早い段階で済ませておきたいタスクです。

 

<2、捨てない物の隔離場所の確保>
被災地には、ボランティアだけでなく近隣住民の親戚も集まってくることが想定されます。
どこの誰だか分からない人間が大勢入り乱れるわけです。
特に集合住宅は混み合います。

そのため、「捨てない物」と「捨てる物」の両方を屋外に集積していると、「捨てない物」まで「捨てる物」として扱われ、どこかに移動されてしまう可能性があります。

少し距離を離して集積するくらいでは不十分です。
かなり離して、さらに目印をつけておくなど、誰が見ても明確に区別できる必要があります。

理想は、捨てない物は屋外に出さず、屋内に留めておくことです。
まだ片付けが済んでいない部屋でも、とりあえず「捨てない物仮置き場」と定め、そこに放り込んでおくのが安全だと思います。
ボランティアへの説明も忘れずに。

 

<3、動線の確保>
家の奥にある大型家具を玄関から出してゴミ集積場まで運ぶためには、まずはその経路上にある物をどかさないといけません。
また、床に溜まった泥もある程度は除去しておかないと、滑って危険です。

 

<4、照明の確保>
平時にはなかなか気付けないことですが・・・
停電していると、窓のない部屋は昼間でも真っ暗です。
懐中電灯やヘッドライトは、複数必要です。

 

<5、道具の確保>
大型家具を少人数で安全に運ぶために、「可能な限り分解する」という手があります。
各種ドライバー・ハンマー・ノコギリ・バールなどがあると便利です。
それらを収めた「工具箱」が誤って捨てられないよう、「捨てない物」として真っ先に隔離しておきましょう。

 

<6、水と食糧の確保>
季節にもよりますが、暑い時期に一日中屋内で肉体労働をする場合、水分・塩分を補給していないと熱中症になってしまいます。

また、エネルギー源も必要です。
チョコレートや羊羹のような、アウトドアで「行動食」と呼ばれる食品を備蓄しておくのがよいでしょう。
(カップラーメンのように手間がかかるものは、作業時のエネルギー補給には不向きかと思います。)

理想を言えば、食事の前には除菌効果のあるウェットティッシュで手を拭いておきたいところです。

 

<7、壁紙の除去>
水を吸った壁紙を放置しておくと、カビが生えます。
剥がしておきましょう。(畳や襖も同様です。)
自然に乾くことはあまり期待できないと思います。

 

<その他注意事項①:仏壇>
仏壇の廃棄には、法要が必要な場合もあります。
非常時なので、そんなことに構わず捨ててしまうケースもあるかもしれませんが。

片付けだけでなくその後の生活再建のスケジュールも考慮して、どうするかを決める必要があります。

 

<その他注意事項②:箪笥に隠した財産>
箪笥が水を吸って膨らむと、引き出しが動かなくなる場合があります。
すると、隠してある実印やヘソクリを取り出せません。

取り出すにはノコギリやバールなどの工具で解体するしかありませんが、その準備できるまで箪笥を捨てるに捨てられず、片付けの邪魔になるかもしれません。

 

 

次回のテーマは、「ボランティアノスヽメ」です。