「仕事道具」考

この世には星の数ほど「職業」が存在します。

そして、ほぼ全ての職業では何らかの「仕事道具」が用いられます。

身一つで成立する職業は、少数派でしょう。

 

そのため、「働く」ということは「仕事道具を使う」こととほぼ同義です。

もちろん、仕事道具は所詮「手段」に過ぎません。
仕事道具を使うこと自体が仕事なのではありません。
仕事道具を使って仕事をすることが、仕事なのです。
決して、手段と目的が入れ替わってしまってはいけません。

とはいえ、やはり働く以上は仕事道具を使うことを避けては通れないのが現実です。
また、仕事である以上、ただ使うのではなく「使いこなす」ことが求められます。
仕事道具を使いこなすレベルは、仕事そのもののレベルを左右するはずです。


では、「使いこなす」とは一体どういうことなのでしょうか。

それを考えるために、まず「使いこなせていない」と言える状態をイメージしてみました。
その逆が、「使いこなせている」状態のはずです。

すると、7つのポイントが浮かび上がりました。

<1、道具に頼りきらない>

人類史上、完全で万能な道具など存在しません。
完全でも万能でもない「人間」が作っているのだから、当然です。

そのため、どんな道具にも限界や特性があります。
それをよく理解し、有効な使いどころを見極め、必要に応じて別の道具に切り替えたり、併用したりできなければいけません。

それができないと、「道具の限界」がイコール「仕事の限界」になってしまいます。
それでは道具を使いこなすどころか、「道具に使われている」ことになってしまいます。

<2、正しい使い方を学ぶ>

どんな道具にも、正しい使い方があります。

正しい使い方を知らず、なんとなく自己流でテキトーに使っていても、とりあえず目的を達成することはできるかもしれません。
それはそれで、「ユーザーを選ばない設計」として考え抜かれた、優れた道具なのかもしれません。
(ユーザーではなく道具がエライ。)

しかし、正しくない使い方は往々にして非効率です。(無駄な力が必要。)
また、道具の寿命を縮める可能性もあります。(道具に余計な負担がかかる。)

<3、安全な使い方を学ぶ>

2とも関連しますが、正しい使い方を知らない人は、おそらく危険な(やってはいけない)使い方も知らないはずです。

自己流のテキトーな使い方でそれなりに目的を果たせてはいても、実はそれは「いつ事故を起こしてもおかしくない、危なっかしい使い方」なのかもしれません。


正しい使い方・安全な使い方を最初にきちんと学ぼうとせず、「とりあえず使ってみて、分からないことがあったら専門家に質問すればいい」という姿勢の人が世の中には結構たくさんいます。

しかし、よく考えてみてください。

人は、「分からない」ことをはっきり自覚できた場合にしか、質問できません。
「分かったつもり」のことを質問する人などいません。
まして、「知っておくべきこと」を漏れなく全て自覚できる初心者がいるわけありません。

なので、自己流のテキトーな使い方でそれなりに目的を果たせているうちは、何も質問しないはずです。

そういう人が、実は自分は「分かったつもり」になっていただけだったと気づくのは、事故を起こして痛い目に遭った時だけです。

痛い目に遭うのが自分自身だけなら、まだいいのですが・・・

<4、正常な状態を理解する>

道具の調子が悪いことに早めに気づいてメンテナンスしておけば、大きな故障や事故を予防できます。

当然、そのためには「どんな状態が正常なのか」をちゃんと理解しておかなくてはいけません。
でなければ、異常なまま使い続けることになり、大きな故障や事故を招きかねません。

また、以下の2つも重要です。
「正常であることを確認する方法を習得する」
「正常であることを確認する習慣を身に着ける」

道具が正常ではない場合、その道具を用いて作った成果物もまた正常ではないことが考えられます。
最悪、そのことに気づけず、十分な仕事をした「つもり」になってしまう可能性があります。

 

<5、簡易なメンテナンス技術を習得する>

道具が正常でないことに気づけたとして、ちょっとした知識があれば簡易な作業で解決できるトラブルのためにいちいち専門家を呼んでいたら、仕事の能率は落ちます。
コストもかかるでしょう。
仕事の能率を上げるために道具があるのですから、ある程度は自分で対応できなくてはいけません。

 

<6、トラブルのレベルを見極める>

自分のメンテナンス技術を過信し、専門家を頼るべきトラブルを自力で何とかしようとしてはいけません。
それもまた時間の無駄になりますし、危険でもあります。

トラブルのレベルが自分の手に負えるものかどうか、きちんと見極める「眼」が必要です。

 

<7、トラブルの内容を専門家に伝える>

専門家にメンテナンスを依頼するにしろ、それは「最速」・「確実」である方がいいに決まっています。
そのためには、何がどう異常なのかを的確に伝える「語彙力」と「表現力」が必要です。

「語彙力」には、その道具に特有の「用語」の知識も含まれます。
高度な専門用語は専門家だけが知っていればいいのですが、基礎レベルの用語はユーザーも知っておくべきです。
(2〜5を学ぶ過程で登場する用語だけで十分です。)

トラブルを抱えている道具を、専門家に直に見せることができるなら、「表現力」はあまり必要ないかもしれません。
百聞は一見に如かず、なので。
しかし、言葉だけで伝えなければいけない状況もあり得ます。
そんな時には、聞き手(専門家)の脳内にできるだけ明確なイメージが浮かぶよう、論理的・具体的な説明ができなくてはいけません。

また、必要としているのが「応急処置」なのか「抜本的解決」なのかも、最初にきちんと伝えてかないと、希望通りの対応をしてもらえません。
(専門家といえど、決してエスパーではないので。)

 

※6と7に関しては、「道具を使いこなす」というより、「専門家を使いこなす」と言った方がいいかもしれません。
道具を修理してくれる専門家もまた、自分が良い仕事をするために使いこなすべき対象です。