数字のトリック

具体的な数字を使ったプレゼンテーションには説得力がありますが、数字の意味を正しく理解して使わないと、無意味なプレゼンになってしまいます。

また、そういったプレゼンを疑う事無く鵜吞みにしていたら、いつ誰に騙されるかわかったものではありません。

なので、常に「この数字は何を意味しているのか?」「この数字とその数字を比較するのことに意味は有るのか?」といったことを自分の頭で考える事が肝要です。

 

 

どうして突然こんなことを言い出したのかというと、ガジェット通信で引用されていた武田邦彦中部大学教授のブログの記事を読んで気になったからです。

まずはこちら↓の記事をご覧ください。(引用元のサイトです。)

【緊急掲載 被曝の限度は民主主義で・・・1ミリと20ミリの違い】

 

 

私が気になったのは、数字の「根拠」と「比較」です。

放射線被爆による「致死的発癌」と「重篤な遺伝的影響」の合計発生数を、「交通事故死亡者」の数と比較しているのですが、情報源が不明瞭です。

放射線被爆の数字については「がんセンターから出ているもの」としていますが、一体どこのがんセンターのことなんでしょうか・・・

東京の築地にある、「独立行政法人 国立がん研究センター」のこと?

交通事故死亡者に至っては、情報源について一言も触れていません。

交通事故死亡者の統計というのは、警察庁が発表している警察白書だけでも「事故後24時間以内死亡」と「30日以内死亡」の二種類がありますし、他に厚生労働省の発表している「人口動態統計」なるものも有り、それぞれ数字が異なります。

武田氏が記事中で記載している「交通事故死  5,000 人」という数字に一番近いのは、どうやら警察白書における「平成24年 30日以内死者」の「5,237 人」のようです。

興味のある方は、警察庁のサイトから [ 4-8 ] の表をダウンロードしてみてください。

 

 

また、放射線の方は「重篤な遺伝的影響」を加えている一方で、交通事故については「死亡者数」だけで比較している点も、明らかに不自然です。

交通事故によって一生ものの後遺症が残ってしまったようなケースも加えた方が、比較対象として適切だと思います。

残念ながら後遺症についての統計データは見つからなかったのですが、「重傷者」についてはありました。

「政府統計の総合窓口 e-Stat」というサイトから、警察庁交通局の資料がダウンロードでき、平成24年の交通事故による重傷者は、46,665 人となっています。(30日以内死者を含むとの但し書き有り。)

なお、警察庁における「重傷」という用語の定義は、「1箇月(30日)以上の治療を要する場合」だそうです。

・・・「重篤な遺伝的影響」と比較するわけにはいかない数字ですね。

 

 

なお、がんセンターとやらの数字によると、年間放射線被爆量が 1msv の場合、「致死的発癌」だけの発生率は10万人あたり5人です。これを日本の人口約1億2700万人に換算すると、6,350 人となります。

実はこの数字、厚生労働省の人口動態統計における平成24年の交通事故死亡者数である 6,414 人よりも小さいんですね。(どういう計算なのか分かりませんけど。)

 

 

自説に都合のいい数字だけ切り貼りすれば、たとえ牽強付会な主張であっても、一応もっともらしく聞こえてしまいます。

相手の肩書きや世論の流れに惑わされず、自分の頭でロジカルに考えるよう日頃から意識していなければいけません。

 

 

堅苦しい数字の話ばかり書いてしまいましたが、私が一番根拠を知りたいのは次のくだりですね。

交通事故死が1万人になった時、「交通戦争」と呼び、日本国民は耐えられないと感じ、現在は5000人で国民が耐えられると思っています。