ISO認証審査のあるべき姿とは?<後編> ~審査というビジネスの付加価値とは~

2010/7/25の記事の続きです。
ISO業界では最近、「付加価値型審査」という言葉が流行っています。
どこの審査機関が言い出したことなのか分かりませんが、
ISO認証のブランド価値が低下している昨今、
顧客離れを食い止めるために発生したのでしょう。
しかし、その中身はよく分かりません。
一体、「(従来よりも)付加価値の高い審査」とは
どんな審査のことなのでしょうか。
審査員は助言(=コンサルティング行為)を禁じられているため、
たとえ審査中に「ここをこうしたらもっと良くなるのになぁ」と感じても、
そう口に出すことは出来ません。
(規格への適合性に関する事であれば別です。)
もっとも、たまに口に出す審査員がいるのは確かですが。
(残念ながらその内容が的外れなことも、少なくありません。)
この付加価値型審査について、月刊アイソスが多くの審査機関を対象に
興味深いアンケートを行っているので紹介します。(2010年1月号 No.146より)
「付加価値型審査、あるいは類似の名称の審査を提供しているか?
 していたらその中身とは?」
というアンケートです。
これに対し、多くの審査機関が「特にしていない。」という回答をしています。
日本化学キューエイ株式会社は特に態度が明確で、
ISO/IEC 17021に従った審査で、審査の類型区別があるはずがない。」
と回答しています。
また、新日本認証サービス株式会社は、
付加価値型審査といった名称のサービスを提供していない理由として、
「現制度化における第三者認証審査は「適合性審査」であること。
 ”マネジメントシステム認証のような適合性評価は、
 それによって、組織、その顧客及び利害関係者に価値を提供する”
 (ISO/IEC 17021:2006 序文)のであって、意図的に
 「組織に役立つ審査」「付加価値の提供」を行うべきではないからです。」
と主張しています。
当たり前と言えば当たり前ですが、審査とは、受審企業が
規格要求事項を満たしているか否かをチェックするものであり、
それ以上でもそれ以下でもありません。
コンサルティングが出来ず、あくまでも規格を根拠として
「適合/不適合」の判断を下すことだけが仕事の審査員は、
一体どんな審査をすれば「この機関(審査員)に審査してもらってよかった。」
と顧客(受審企業)から言ってもらえるのでしょうか。
ISO認証審査の本質が「規格に対する適合/不適合のジャッジ」に
あるのだとしたら、やはりそこで勝負すべきでしょう。
それ以外の概念を持ち出してきては、もはやそれは認証審査ではありません。
ただ用意された記録書類に目を通し、チェックされている項目や
ハンコの漏れをチェックする審査も、適合性審査には違いありません。
しかし、それら「監査の証拠」を元として最終的に「適合/不適合」を判断する際に、
ちょっと考えてもらいたいことがあります。
それは、
「今ここで私が適合(or不適合)の判断を下すことは、
 この企業が自社のマネジメントシステムを(ISOに基づいて)成長させる上で、
 メリットがあることだろうか?

 そもそもこの会社は、(ISOに基づいて)マネジメントシステムを構築し、
 成長させることで、何を実現しようとしているのか?
 私が今から下そうとしているジャッジは、その助けになるものだろうか?
ということです。
こういったことを踏まえて出てきた結論であれば、
それがたとえ不適合であったとしても、
(あるいは観察事項やコメントかもしれませんが、)
受審企業としては「この人に審査してもらえてよかった。」
と思えます。
少なくとも私はそうです。
そのためにはまず、審査員は「この受審企業は、ISOを通じて何がしたいのか?
を理解しなくてはいけません。
これは受審企業によって千差万別だと思います。
逆に最悪なのは、規格に対する変な解釈の自説を押しつけたり、
規格とは別の基準(多くの場合、自分の経験に基づく自分だけの常識)
を持ち出して審査をしようとしたりする審査員です。
たとえ言っていることが正しくても、それはISOの審査ではありません。
その道のコンサルタントへの転職をお勧めします。